僕の好きな先生 学校の先生というのは、多かれ少なかれ、子供のその後の人生に影響を与えてるものです。 私には忘れられない先生が二人いまして、今回はそのうちのお一人の先生のお話。 その方は、私が小学校5年6年の時の担任で伊藤先生という、うちの母親ぐらいの歳の女の先生でした。 この伊藤先生、道徳(もう学級活動とかよんでたのかな)の時間になると、ワケのわからないテーマ討論なんかはやらずに、ひたすら本を朗読してくれました。 本を読んでもらうなんて、小5,6になるとあんまりありませんからすごく嬉しかったです。 小学校の低学年の頃は「お話の時間」があって先生に本を読んでもらうことがあったり、小学校4年ぐらいのときは図工の時間に「お話の絵」というテーマのために椋鳩十の本などを読んでもらったことはありますが、それ以外は本を読んでもらうなんてことは、あるようでないんですよね。 伊藤先生に朗読してもらった本で一番覚えてるのは「ビルマの竪琴」。 何日もかけて朗読してくれました。 普段やかましいクラスも先生の朗読はとても楽しみで、真剣に静かに聞いています。 伊藤先生は朗読が素晴らしくうまいとかそういうわけではありませんでしたが、なぜか引き付けられました。 「ビルマの竪琴」がエンディングに近づいたころです。 なにやら先生の声がおかしくなってきました。 どうしたのかと見ていると、先生は自分で読み聞かせてるのに、自分自身が感極まっちゃって、泣きはじめたんですよ。 泣きながら読んでるから、もう何いってんだかわかんない。 「ごめん」「ごめん」と言いながら体制を立て直しながら、かろうじて読んでくれたのです。 その姿を目の当たりにした私は 「大人が本を読みながら泣くのか・・・」 と、非常に新鮮な気持ちになりました。というか嬉しかったです。 本を読んで泣いてもいいんだ。 ビルマの竪琴って大の大人を泣かせるほどの話なんだ。 私は国語を学んでる意味がわかったような気がしました。 人の心を時空を越えて動かす「表現」と言うものに、とても感動したんです。 物語の内容じゃなく、伊藤先生の姿に感動したのです。 先生に朗読してもらったエピソードは、その後、ずっと私の記憶に残りました。かといって、私は読書家になったわけではありません。 作り手側になって、伊藤先生のような人を感動させたい・・と思うようになりました。 10年余りたち、私は大学マン研でマンガを描いていました。 いくつか満足の行く作品ができた頃、東京の出版社にも持ち込みました。 小さな賞ももらいました。(でも、それで食っていくほどの根性はなく、今はサラリーマンをやってるんですけどね) 出版社に持ち込んだあと、私はその作品のコピーを取り、10年前の恩師、伊藤先生の所に持っていきました。 伊藤先生は、小学校の先生を続けておられましたが、当然のことながら学校は代わられてました。 岐阜県M市立I小学校の確か3年生の担任をしておられました。 ドキドキしながら職員室に行き、先生に挨拶をして近況報告をした後、賞をもらったマンガのコピーを見てもらいました。もちろん朗読なんかしませんよ。 先生は読み終えた後、いろいろ嬉しくなるような感想を言ってくれました。ああ、持ってきてよかった。 そして・・・・ 「教室にいってみんなの顔を見てやってくれない?」 とおっしゃいました。 げげ!予想外の展開。 3年生の教室に入ると、運動の後なのか、汗臭さと言うか、正直甘酸っぱいようなションベンくさいにおいがしました。 これが子供の集団のにおいなのかあ・・・。ある種、発見の感動を味わっていると 伊藤先生は私を紹介しはじめました。 「このお兄さんはねえ、小学生の頃私が担任で教えてたお兄さんです」 教室の子供はもう「ええー!」「ぎゃー!」「何年前ー?」などと大騒ぎ。 「今日はこのお兄さんが自分で描いたマンガを先生にプレゼントしてくれました。クラスの文庫に入れてみんなであとで読みましょう」 ええー!そうなんすか!はずかしー・・てな感じで小3の教室で真っ赤になって立ってる青年の私。 「では、このお兄さんにお礼として、みんなの『乾布摩擦体操』を見せてあげましょう」 もう教室の子供たちは大張り切りで乾布摩擦を始めました。 みんな身もだえしながら渾身の力でこすってる姿がおかしくて、思わず笑っちゃいました。 ・・・・・・・と、このようにして、私は伊藤先生に小学校時代にしてもらった朗読のお礼をしてきたわけです。 もちろんその当時は、お礼なんて意識はありません。単に自分のマンガを読んでもらいたい人を考えたら伊藤先生が浮かんできただけのことなのです。 その後 I小学校では私のマンガはどんなふうに読まれたのでしょうか。当時小3の子らももう30近くになってるはず・・・・。 そのへんのこと、先生に聞きたいのですが、私が大学を卒業して就職で関東に出てきちゃってから伊藤先生とは会ってないのですよ。 元気でおられるかなあ。年賀状ぐらい続けて書いておけばよかったなあ。 |
2001/3/1 |