父の魂・19

キッスの思い出


私が小学校1年の頃の出来事です。

そのころ、私には初恋の女の子がいました。
名前はK子ちゃんとしておきます。

もうねえ、好きで好きでねえ。
どこがそんなに良かったのかわからないけど 好きでしたねえ。

ある日のお遊戯の時間です。
10人ぐらいで輪になって踊ってました。

自分の向かいには憧れのK子ちゃん、 見つめていたら、
もう、たまりません。
ああ、チューがしたいなあ!

そのとき、自分自身、信じられない行動に出てしまいました。

突撃チューです。

唇をめくり上げ、猪のように突進です!

K子ちゃんは 「キャー」といって顔をそむけましたから、私の情熱満載の突撃チューはむなしく首筋に着弾。

そうしたら、あんた、当然のことながら まわりは蜂の巣をつついたような大騒ぎ!

「かのーくんがキスしたー!」

「うわー」

「ぎゃー」

ってなもんですわ。


その日から、クラスメイトの容赦ない仕打ちがまっていました。

黒板にかのーがチューしてる図なんかも描かれたりしてね。

でも私は平気でした。 だって、K子ちゃんもまんざらでもなさそうだったから。


しかし、何日もその騒然とした状況はおさまらず、
クラスを越え、学年を越え、かのーの突撃チュー事件は大評判。

担任の山内先生(当時50歳ぐらいの女性教師です)もさすがに ほうっておけないと思ったらしく、クラスの朝の会のときに私を前に呼び出して、私の肩にそっと手をおいて、みんなに向かってこう言いました。

「最近、かのーくんがキスをしたなどという変なウワサが立っていますが、かのーくんがそんなことをするはずがありません。
そうでしょ!かのーくん」


ゲゲエ!予想外の展開!

私は悩みました。

自分は結構ソツのない子供で先生のお気に入りだったので、先生としては、私が突撃チューという野獣のようなマネを しでかすはずがないと思ったんでしょうね。
(ははは、しかし子どもはそんな甘いもんじゃありません)


7歳児の脳をフル回転させ私は結論を出しました。

シラを切ろう・・・。

そして

「はい、キスなんてしてません」

と堂々と言い放ちました。

「そうでしょう。そうでしょう。
みんな! へんなウワサを信じて かのーくんを
いじめちゃだめですよ!」

その場に居合わせた、いたいけな小学生のクラスメイトは

「この世に正義はないのか!」

と地団太踏んで悔しがったことでしょう。

申し訳ないと思いましたが、これも私の将来のため・・・。
心の中で手を合わせましたよ。

私は、以来、その反動のためかウソがつけない人間になりました。(ウソ)

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