父の魂・2

おかいこ様騒動

小学校3年生の娘が理科の授業で蚕を飼うことになりました。ひとり一匹ずつ割り当てられてイチゴパックに入れて育てるのです。

蚕かあ・・・亡くなった祖母が「おかいこ様」といってたので、私としては「蚕」より「おかいこ様」の方がしっくりしますね。

で、学校が休みの日は家にもって帰って世話をするのですが、娘はそれはそれは大事に扱っています。「脱皮のときさあ、ずっと動かなかったんで死んじゃったかとハラハラしたよー」などど世話の思い出話なんかしちゃってね。

普段は小さな羽虫が飛んできてもキャーキャーいうくせに、自分の所有物になれば芋虫でも可愛いとは不思議なもんです。

当然蚕にえさをやらねばなりません。えさはもちろん桑の葉です。聞けば近所の公園にあるらしいのです、桑の木が。娘は先生に「これよ」と教えてもらったといいますが、どうも当てにならないので私も植物図鑑を持って一緒にとりに行くことにしました。

案の上、娘はどの木かわかりません。
「よしよし、パパが図鑑で調べてやろう」
私が持ってる図鑑には「山桑」しか載ってませんでしたが、『蚕のえさになる』とあったので、その葉っぱ写真をもとに特定しました。

「これだよ!これこれ。ほらほら、葉っぱの形がそっくりじゃないか」

「ええー。先生はもっと小さい木を指差してたよ」

「いいんだよ、これで。ほら、図鑑には高さ15メートルにもなるって書いてあるじゃん」

「うーん・・・」

「わかった。そんなに納得できないなら、あのおじいさんたちに聞いてみよう」

ちょうどそのとき、公園のグランドで5〜6人の60歳ぐらいの若めのじいさんたちが、白熱したゲートボールの最中でした。じいさんと呼ぶには若すぎますが、娘からすればじいさんでしょう。そのなかの一人と目が合ったので、

「すいませーん。あのー。これ桑の木ですよねー」
ときくと、

「・・・・・・・・・・・・・・。そりゃあ桜じゃよー

どっひー。桜の木も知らんのか、わしは! 恥ずかしー! おじいさんの話す前の沈黙はあきれ返って声も出なかった状態だったに違いありません。

しかし、気を取り直し、とはいえ顔を真っ赤にしながら
「この辺に桑の木があるって聞いたんですが」
と、いうと

「桑はねえ、かえでみたいな形の葉っぱでね。小さい木なんだよー。あれがそうじゃないか?」

と、小さな木のところに案内してくれました。

でも、じいさんたちも昔の桑畑に生えている桑は知ってるけど、公園に自生している状態で桑なんか見たことがありません。そのじいさんも自信がないのか、ゲートボール仲間の別のじいさんに聞きました。

「これ、桑だろ?」

すると別のじいさん、葉っぱのにおいをかいで
「いや。桑じゃねえ!」

またまた別のじいさんも寄ってきて
「なあに言ってるんだー。桑でもヤマグワとかあってなあ、葉っぱもいろんな形してんだあ。これは桑だ!」

「いや、違う!」

「なにいっ」


頑固じじいの喧嘩状態になってきました。せっかくゲートボールで楽しくやってたじいさんたちなのに! ごめんなさい、私たちのために・・・。と、かつての巨乳アイドル河合なおこの『ケンカはやめて♪』のような気持ちです。

「あはは(汗)。では試しに蚕に食べさせてみますんで・・・。どうもお世話かけましたー」
と、そそくさとその場から退散しました。

しかしどうも気になるので、隣の公園にも足を伸ばしてみる事にしました。あらら、ここにもさっきの葉っぱと同じ木がある。

しかも、じいさん、ばあさんもいる。それも、さっきの方々より年季の入った80歳ぐらいのベテランの年寄りです。午前中の公園はお年よりの宝庫。

そのお年よりたちは、ボランティアで公園の掃除をされてました。足元もおぼつかないのに、がんばって地域社会に貢献する姿は美しい。(私もこれからは空き缶を拾うぞ)  
近くの、品がよさそうで、ゆっくりゆっくりゴミをひろっているおばあさんに声をかけました。

「すみません。これ、桑の葉っぱですか」

するとばあさんニッコリと

「はーい。桑の葉っぱですよー」

と、気持ちいいほど断定してくれました。

ああ、これで安心して蚕にえさをやれる。おばあさん、ありがとう。蚕の世話は昔の女性の担当だったので、何十年も経った今でも、間違えようがないのかもしれませんね。

やっぱり年をとったら物知り爺さんになりたい・・・と妙な感激を味わいながら、娘といっしょに桑の葉っぱを摘んで家に帰りました。

蚕に摘んできた桑の葉をやると、それはもうすごい勢いで食べ始めました。自分がとってきたえさを一生懸命食べてくれるというだけで、可愛いもんです。
  

娘よ、ママの作ったご飯はおいしそうに食べるんだぞ。それだけでも可愛いのだからね。と、またまたわけのわからない説教をしながら、二人で蚕を眺めていました。

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